令和3年度全技連マイスター会東京都支部総会特別講話

新型コロナ収束後の世界とものづくり

全技連マイスター会会長 大関 東支夫

 一昨年から2年近くも続いている新型コロナですが、ようやくワクチン接種が進みだしたことで少し出口も見えてきたように感じます。しかしウイルスには終わりの「終息」はなく、感染が少しずつ治まる「収束」の道へ進むことになります。
 その後はインフルエンザと同じように毎年形を変えて新型が繰り返し誕生していくことになりしばらく付き合うことになります。

T. 今回のコロナ感染で私たちは多くのことを学びました
 その最たるものは、これまで世界の先進国と思われてきた日本が「こんなに頼りない国だったのか」ということではないでしょうか。

1. ワクチン対応をみても

(1) なぜワクチンが日本で作れないのか?
 いまワクチンはアメリカやイギリスからの輸入に頼るだけです。中国やロシア、インドでも自国のワクチンを製造して使っています。
 数年前まで日本はワクチン技術では世界一といわれました。それが作られなくなった。それは、ワクチン製造に多くのリスクがあるからです。
 ウイルスというのは確実に流行するとは限らない。そうしたウイルスのために巨額の研究費も人材もかけられない。仮に製造して売れる状況になったとしても副作用が起き訴訟でも起こされると何億円という多額の賠償金を払うことになる。賠償対象が多人数になったら一企業で負える額ではない。正に割の合わない仕事です。薬品会社の殆どが撤退してしまった。
 英米の場合はどうか。承認されたワクチンを国が一定量を買い上げる。敗訴した場合でも賠償金の一定額以上は補填する。
 日本も同様の仕組みを国策事業としていかないと改善されないように思います。

(2)なぜ「感染症ベット」が不足するのか?
 日本は一人当たりの病床数が世界一と言われています。
 東京都で感染者が増えホテルと契約してまで対応した。感染病床が不足したとき、都内の民間病院には同数以上の空き病床がありましたが感染者を受け入れないのです。「他の患者用に空けておく必要がある」という理由でした。病院によっては患者が減り経営危機になっているところもあります。それでも感染者を受け入れない。

 ワクチン接種も同様です。ワクチンが到着しても打ち手が足りない。
 看護師や歯科医師まで動員して接種しています。しかし日本医師会からは反対もでています。「領域を侵される」という拒否反応があるそうです。このため地域により開業医の協力もマチマチでワクチン接種に大きな差がでています。
 さすがに菅総理は、自衛隊、臨床検査技師、救急救命士、獣医まで動員して集中接種を進めています。反対があっても「やれるものは何でもやる」と宣言しています。進まない接種にしびれを切らしたのだと思います。
 治療医学と予防医学の違いや感染患者を受け入れた時の病院経営の問題もあるのでしょうが、国難ともいえる緊急事態のこの時期に、「白い巨塔の世界」を理解するのは難しいように思います。
 今後は感染症患者を受け入れる国公立病院の整備や協力できる民間病院の育成、内科医師の定員増、保健所機能の在り方まで含めた改革が急務になってくるように思います。

(3) ワクチン予約が大混乱しています
 現在、電話予約もありますが1人の予約にかかる時間が15分。1時間で4人しか予約できないそうです。5人体制でも20人です。
 ネットでの予約が主流ですが高齢者ではうまくいきません。デジタル対応のできない国民が大勢いることもわかりました。一人暮らしの高齢者はネットのできないIT難民になっています。
 行政のデジタル化も信じられないほど遅れています。ネットのできる人でも直ぐに目的にたどり着けないような出来のよくない予約プログラムです。長く続いた役所文化が変えられず、相変わらずの紙文化、印鑑決済、電話連絡というアナログ行政の考えを基本にプログラムを組み立てています。
 いまや中国、韓国にも大きく後れをとっています。国や自治体は最優先でデジタル行政推進をしなければなりません。あわせて、国民のネット適応力を高める必要があります。
 技能士会も同様の問題を抱えているため、東技連では今年度事業に、「IT教室」「ネット教室」「いまさら聞けないパソコン教室」を開催する予定です。技能士のネット難民をなくしたいと願っています。

2. ものづくりの世界でも大きな問題が

 現在、多くの部品が外国からの輸入に依存しています。コロナ禍で幾つかの部品が入らなくなり、自動車や産業機械、電気製品等完成品が作れなくなっています。完成品は半導体等のたった一部の部品が足りなくても完成しないのです。
 これまでの円高対応で多くのものづくりの現場が日本から海外に移転しました。そのツケが今回、起きているのです。緊急時に最低限の部品が国内で調達できるような国家プロジェクトが急務となっています。

3. 政府の指導力の弱さ、混乱が目立っています

 かつて日本は優秀な中央官僚組織に支えられ戦後の高度成長を支えてきました。日本の官僚制の優秀さは世界からも羨ましく思われていました。しかし、いま指導力は政治家に移りました。「国民が直接選んでいない官僚が政策を勝手にきめるのはおかしい」というのが理由です。官僚の人事権まで政府に移ってしまいました。
 こうなると官僚のなかから「出世のためには部下を犠牲にしてまで政治家に媚びる」という「忖度政治」がはびこりだします。
 かつて司馬遼太郎が「坂の上の雲」や「日本のかたち」という小説のなかで記述していたことがあります。「明治以降の官僚はまことにいじらしいほど清潔だった。お金や地位にこだわらず、公の幸せのために生涯をかける。こんな官僚は世界中さがしてもいない」という高い評価でした。
 それがいまはどうでしょうか。公務員の基本的姿である実力や成績を中心とした「メリットシステム」が消え、時の政権に左右される「猟官制度・スポイルシステム」に変わってしまったのです。いま司馬遼太郎氏が健在ならばどう評価するでしょうか。
 官僚を目指す学生も激減し、官僚の質が低下していると聞きます。これからの日本を考えると大変心配です。いまこそ広く官民挙げた有能な人材を登用し、誇りの持てる健全な指導機関を組織化しなければなりません。

4. いまの日本が世界に誇れるもの

 それは日本国民です。「礼儀を重んじ、粘り強く、我慢強い日本国民」です。
 新型コロナ対応でもマスクや手洗い、オンラインでの仕事、営業時間短縮、酒類提供自粛要請等に国民は涙ぐましいほど協力しています。国民の協力が最も大きいのです。
 かつての東日本大震災の時もそうでした。いつも国民が国の危機を救っているのです。

5. 世界の国々も目を覚まして欲しいこと

 いま世界中で所有する原爆は地球を3回も全滅させる量だといわれています。米国や中国の経済大国だけでなく、北朝鮮、インド、パキスタン、イランという経済的にあまり余裕のない国までが核兵器やロケット開発に多額の経費と人材を投入しています。
 しかし今回のコロナ感染拡大で核兵器やロケットは何の役にも立たず国民が救えないことが分かったはずです。この核兵器やロケット1つにかける経費を医療や環境保護にかけていたら今日の状況は避けられたのではないかと思うのです。

U. コロナ収束後の世界を考える

1. 景気はどうなるか?

 かつての景気回復パターンと異なり、コロナ後の景気はV字回復にはなりません。世の中が変わっているのです。オンラインの定着により働き方改革はさらに進展、変化していきます。満員電車もなくなります。飲食街も以前のような深夜まで賑わう風景にはなりません。産業構造も大きく変わってきます。
 既にビルの空室が増加しています。オリンピック開催で需要を当て込み建設した大量のビルがオフイス需給のバランスを壊していきます。
 金融面では、景気が回復するまでは金融緩和は続けざるを得ませんので、株価の暴落は当面ないと思いますが。ただ、株で恩恵を受けるのは「株を持っている少数の人たち」だけです。
 コロナが収束すれば、コロナ関連の支援金、協力金はなくなります。支援だけに頼って事業を継続してきた企業や商店は倒産、廃業に追い込まれます。関連する人たちにとっては冬の到来です。
 いわばコロナ収束後に、「上昇気流に乗れる人たち」と「生活苦にあえぐ多くの人たち」に分かれる「K字回復」になります。オリンピック終了後から顕著になってきます。
 その時期になると国も自治体も追加支援をする余力はなくなっています。私が心配していた「自殺者や犯罪の増える過酷で物騒な時代」が始まるのです。

2. 世界平和の問題

 未だに新型コロナ発生源が特定されていません。これから犯人探しが始まります。
 当初は中国武漢の市場で発見され「蝙蝠から自然発生したもの」だ、と信じ込まれてきました。トランプ前米国大統領は、「チャイナウイルスと呼び、武漢にあるウイルス研究所から漏れた」と批判しました。当時の米国のマスコミはトランプ大統領と対立関係にあったため、「トランプは嘘つきの名人。1日に1回嘘をつく。うっかりトランプの発言にはのれない」ということで殆ど取り上げられませんでした。
 WHOもおきまりの調査に入りましたが中国の監視下での調査であり十分な協力も得られず発生源の証拠はつかめませんでした。
 その後、研究所で働いていた数人の職員が、新型コロナ拡大前の一昨年11月に症状がでていたことが表面化しました。また「研究所職員が素手で蝙蝠をつかみ噛みつかれる」というビデオが英雄視される形でテレビ放映されました。
 さらにイギリスの研究者が「ウイルスは中国の研究所で人工的に作られたことを法医学的に突き止めた」という論文を発表。「鳥から鳥」→「鳥から人」→「人から人」に変異させた。一部のマスコミから「細菌兵器を研究している疑いがある」との報道もでた。  

 すると、「どうもこれだけはトランプさんの言っていたことが本当だったのでは」という世論がでてきた。マスコミも取り上げるようになる。
 もともとこの研究所はアメリカが資金をだして共同で作られもの。その後中国に任せてきた経緯がある。バイデン大統領も米国民に対する説明責任があり再調査を要請しました。先日までイギリスで開催されていたG7でも厳しい決議されました。  

 当然、中国は猛反発しています。
 仮に、細菌兵器の開発が事実ともなれば米中関係はもちろん、世界中を震撼させることになります。これからの戦争の形が変わるのです。核兵器を使用する戦争はおそらくできません。同じ報復を繰り返すことになるからです。地球最後の日になります。
 これからは「二つのウイルス」による戦争が心配です。
 一つは「コンピューターウイルス」により政府機関、軍事、金融、産業、航空機等のシステム破壊すること、もう一つは、あらかじめ自国民にワクチン接種しておき敵対国に「細菌ウイルス」をばらまく、という戦争です。こうなると関係ない国までが巻き込まれていきます。

3. 中国が制御しきれなくなってくる

 この数年で、中国は世界の国々に対し経済力を背景に強硬外交を仕掛けてきました。
 東南アジア諸国にお金をちらつかせながら、周辺の空域、海域で大胆な軍事的動きを強めています。目的の多くは、資源開発拠点確保です。
 日本の尖閣諸島を「中国の領土だ」と主張しはじめたのも、近くに石油資源のあることが判明してからのことでした。台湾侵攻を急ぐのも台湾の持つ半導体に魅力を感じてきていることがあるとも言われています。最近は北極海の資源確保や月世界にまで進出を始めました。こうなると中国は世界からも制御不能です。
 なぜ大国になった中国が急に強気な政策をとり始めたのか。本来、大国は尊敬される国にならなければ長持ちしません。恐れられる国になった時が「終わりの始まり」です。
 しかし中国の動向を冷静にみておく必要があります。

 私には、背景に内部事情があるように思えてなりません。

  1. 香港、ウイグル、チベットへの同化政策→共産党崇拝させて民族同化を強める
  2. 一人っ子政策による少子高齢化問題→年金、医療、食料、軍事、定年制延長
  3. 不動産バブルの崩壊、民間銀行の破綻危機→高利子で預金確保→不動産・株式投資
  4. 現実的になった食料危機→多くが輸入品、気候変動、砂漠飛びバッタ→食べ残し禁止
  5. ITにより国民監視、言動の抑圧→若者の不満
  6. 約6,000万人の共産党員が14億人の国民を支配する国家体制
  7. 習近平体制に対する権力闘争→文化大革命当時の雰囲気
 これらの鬱積した不満、問題から国民の目を「外に向けさせる」目的があるように思えるのです。制御不能となってきた中国に対し欧米を中心として中国包囲網を固めてきました。日本の立場も微妙になってきます。

4. 物価の上昇が始まる

 いま、食用油、蕎麦の実、玉子が値上がりし、銅、鉄、貴金属等の鉱物資源、木材や電池の原料となるニッケル、コバルトなどのレアメタルが高騰しています。
 これは中国に対する輸出入規制が背景にあります。今まではどこの国からでも安い原材料を買うことができました。いまは輸出入は同盟国内に限られてきました。日本も中国との取引は激減しています。輸入先の選択肢が絞られることで欧米も中国も原材料は高騰していくのです。
 情報や軍事目的に転用されそうなモノは輸出禁止になっています。半導体、電子部品、通信機材など厳しいチェックがされて輸出できません。そうなると、ものづくりの世界も大きく変わってきます。これら商品に関係するものづくりは大きな影響をうけるのです。

5. 産業の中心が環境や医療が主役になる

 石油、石炭といった化石燃料が敬遠され、電気、天然ガスがエネルギーの中心になります。特に自動車の殆どが無公害の電気自動車に変わってきます。そうなると部品は格段に少なくなるため下請け企業も大きく整理されてきます。替わりに、自動運転のための半導体や高性能の蓄電池開発が主役になってきます。特に「半導体戦略で負けた国はあらゆる産業で出遅れる」ことになります。
 いま世界の最先端技術は、1億分の1メートル(爪の先ほど)の半導体チップに500億個のトランジェスターを搭載できるところまできています。
 いま先端技術の半導体は台湾になっていることが非常に危険な状態になっています。欧米も中国も台湾依存しています。欧米からも中国からも狙われるのです。

 日本はこれまで経験したことのない厳しい時代になりますが。
 どのような時代になっても、やるべき優先順位はあります。優先順位を間違ってはなりません。日本は世界から尊敬されるものづくり国家にならなければいけないのです。
 国にとって必要なことは、「武力により威圧」をするのではなく、人々の生活に欠かせない「ものづくりに軸足を置いた経済力強化」を優先すべきです。その意味で、ものづくりに関わる私たち技能士会の役割と責任がますます重要になります。
 近い将来、「日本という国が地球上にあってよかった」と思われる時が来ると信じています。そういう国にしていかなければなりません。

V. これからの技能士会

 暗い話が続きましたが、技能士会にも朗報がありました。
 かねてから国会議員による顧問団編成を働きかけてきましたが、この度、山梨県選出の堀内のり子現環境副大臣から内諾のお話をいただきました。先週11日(金曜日)に副大臣室で1時間ほどお話をし、技能士の抱える問題、課題を説明してきました。そして正式に受諾いただくことになりました。

 堀内副大臣には「特別顧問就任」をお願いしました。早速、事務局と秘書による定期的な政策打ち合わせをすることになっています。
 将来的には、国会議員による顧問団を結成していただき、技能士会を応援して欲しいと願っています。当然、私たちも選挙等で支援していきます。

 少しずつですがやれることから進んでいきたいと思います。
 しばらく厳しい時代が続きそうですが、技能士会は一致団結して苦境を乗り切り、来年こそ明るく元気な総会になることを楽しみに頑張っていきましょう。

 長い話になりました。
 ご清聴ありがとうございます。