全技連マイスター会総会 : 会長挨拶 & ミニ講演

    全技連マイスター会     
       会長 大関 東支夫  

 新型コロナでリスクを抱える中をお集まりいただき有難うございます。

 事務局から、「久しぶりなので最近の技能士会の動向や今後の世の中の方向等について話をして欲しい」ということでしたので、少し時間をいただきお話させて頂きたいと思います。

 確か、一昨年の秋ごろに申し上げたことがあります。
「過去の歴史を見ると、政治的には40年、経済的に30年周期で大きな出来事が起きている。2020年は偶然にもこの二つの周期が重なる年。何か大きなことが起きなければ良いがと、心配しております」ということを。
 不幸にも新型コロナが拡大し、心配していたことが現実のものになってしまいました。
 世界ではすでに1億7千万人もの人が感染し、今も毎日50万人以上も増え続けています。死者も350万人を超えてきました。
 最も感染者数の多いアメリカでは約60万人の死者がでています。これは第二次世界大戦での死者を超えているそうです。
 日本の感染者数は約73万人。死者は16,000人。
 欧米に比べるとはるかに少ない数字と言われていますが、ワクチン接種は先進国の中で最も遅れており未だに収束の見通しもたっていません。
 オリンピック開催が間近にせまるなか、これからの判断が注目されてきます。

 日本は10年前に東日本大震災、5年前に熊本大地震が起きました。私は、こうした大災害が起きる度に思うことがあります。
 「この災害は天災なのか、それとも人災なのか?」と言うことを。
 確かに、東日本地震は天災かもしれません。しかし福島原発も天災なのか。対策、対応面での人災はなかったのか?
 熊本の場合も地震は天災だが、熊本城の復旧が遅れているのも天災なのか。技能士を育ててこなかった責任、人災もあるのではないか?
 新型コロナもそうです。ウイルス発生は天災だから仕方ないと割り切れるのか。それとも環境破壊による突然変異ウイルスの発生や予防医学を軽視してきた人災はないのか?
 5年ほど前でした。
 私はマイクロソフト創業者のビルゲイツさんが予言していた話を思い出します。「いま世界の大国、先進国が多額の資金をかけているのは軍事力や生活の利便さを求める開発ばかり。いま人類にとって怖いのは新たな細菌や環境破壊による未経験の出来事だ。残念ながらほとんどの国がこうした備えをしていない」という内容でした。
 不孝にもこの予言が見事に的中しているのです。
 いま米中の経済大国だけでなく、北朝鮮、インド、パキスタン、イランと言ったあまり経済的に余裕のない国までが核兵器やロケット開発に多額の経費と人材を投入しています。世界で保有する原爆は地球を3回も全滅させる量だと言われています。
 しかし今回のコロナ感染拡大で核兵器やロケットが何の役にも立たないことが分かったはずです。国民が守れないのです。
 核兵器やロケット一つにかかる経費を医療や環境保護にかけていたら今日の混乱は避けられたと思わざるを得ません。

   こういう時代は、自分の事は自分たちで守ることが基本になります。
 技能士の世界も同じです。
 新型コロナで、技能士の皆様も言葉に表せないほどのご苦労、ご心労を抱えておられることと存じます。
 私は、そうした実情を見かね、昨年11月11日に全技連を代表し政府に3点の要望をしてきました。
 一つは、技能士の抱える課題や悩みを総合的、統一的に取り組んでくれる「ものづくり庁」「技能士庁」「匠の技庁」等の創設です。
 現在、技能士の認定は厚生労働省ですが、相談できる所管庁がばらばらです。
 建設・建築関連は国土交通省。調理は農林水産省。宮大工等文化財保存技能士は文科省。機械関連、電子機器、伝統工芸やファッションは経済産業省です。
 技能士にとってパートナーとなる所管庁が不可欠です。
 二つ目は、地方の技能士会活動が円滑にできるような後継者育成費用、事務所費用、災害支援の行える財政支援の要望です。
 三点目は、新型コロナ感染拡大に伴う技能士向けの支援策です。
 企業や飲食店には支援金が支給されている、しかし一人親方的な立場の多い調理師、和装着付け、フラワー装飾等の仕事は激減している、にも拘わらず、支援策は殆どない。技能士として継続できるような対応策の要望です。
 選挙前ということもあるのか、多くの議員の参加があり真摯な応対を受けました。このうち何人かの議員から各省庁の職員を呼び実現に向けた働きかけをした、という情報もいただいています。
 私からは技能士に理解のありそうな国会議員に、顧問や相談役のお願いもしておりますが、何人かの方からは前向きなお話もいただけるようになりました。
 ただ毎年感じることですが、議員の協力を得るためは、「日ごろから選挙支援やパーティ券を購入するなどして協力していかないとなかなか親身に動いてくれない」、ということです。私の個人的な付き合い程度ではわずかなものです。
 しかしいまの全技連の会費でそうした活動をしていくのはとてもできない相談です。
 私が国への要望の際に、ある国会議員が「一人100円以下の会費で足りないから補助金をくれ、といっても理解されないのではないか」との発言もありました。

 ご案内でしょうが、いま全技連の会員は約10万人です。会費総額は約800万円。これは一人あたり約80円となります。郵便切手代以下の会費です。この会費で事務所経費、人件費、事業費をやりくりしています。もちろん、役員は無報酬、活動費も原則自己負担です。
 10年前の国の事業仕分けで約4,000万円の補助金が全額削減されたあとも値上げをせずに頑張ってきました。しかし、ここ数年で消費税や物価の上昇も激しく、内部努力が追いつきません。法人としての破綻の危機を迎えました。
 このため「1人当たり年間200円にさせて欲しい」と提案しましたが、幾つかの県連から猛反対を受けました。検討委員会を設けて議論もさせていただきました。


 この検討委員会の結論を、先日の理事会に提案しました。
 令和2年度、3年度は現行通り、令和4年度から1人あたり200円の会費徴収が理事会で承認され、総会に諮られることが決まりました。ようやく破綻の危機だけは避けられる見通しになりました。
 こうした中で、奈良県からは、「会費の値上げにかかわらず今年度限りで全技連を退会したい」という申し出でがありました。理由は、「県連の会費値上げを提案したら反対された。全技連に納めている会費を使えばよいではないか、との結論だった」ということです。
 また山口県、石川県からは「値上げした場合は退会も検討したい」という打診もきております。
事務局からは
  @ 退会すると技能五輪やグランプリ参加も疎遠になり若者が育たなくなる、
  A 今後全技連マイスターの誕生もなくなり匠の技も育たなくなる
  B すでに取得したマイスター資格も放棄したことになる
  C 現代の名工や叙勲の支援もできなくなる
  D 今後、国から支援策がだされても対象外となること等を伝え、退会を思いとどまる ように申し上げましたが、「それは報復ではないか、けしからん」という反論を受けています。
 正直なところ、私はこうした一人100円の争いにはあまり関心はありません。反対は反対で考え方ですので仕方ありません。
 ただ、地方技能士の将来にかかわる判断を、100円会費の問題だけで簡単に、「全技連を捨ててしまう」「退会を決めてしまう」「それを役員の誰もが止めようとしない」
 このことに技能士の世界に絶望的なものを感じてしまうのです。

 数年前ですが、東日本大震災や熊本地震の時に技能士会に義援金を募集し協力いただいた時があります。あの時は、アッという間に400万円以上の義援金が集まりました。
 その同じ技能士会が技能士本来の職業費、活動費、交際費ともいえる会費になると、年間一人200円に何故これほどシビアなこだわりを見せるのか、という疑問です。
 農業でも漁業でも伝統工芸でも自前のビルを所有し政治的活動を含め経済的、社会的地位向上を図るための活動をしています。自分の仕事にお金をかけない職業に進展も未来もないのです。今後、他の職業人とのさらなる格差がつくことを心配するばかりです。
 救いは、年間一人あたり1万円会費で活動していただいている全技連マイスターの方々です。全技連の会費問題でもマイスターの方々から暖かいご支援もいただきました。こうした人たちの熱い支援、声援が、事務局職員の「折れそうになった心」を支えてくれています。正に「困った時の友こそが本当の友」ということを実感し感謝しています。

   話は変わります。
 これからワクチン接種の進展により集団免疫ができることで新型コロナは収束に向かいます。では、その後、バラ色の世界が待っているのか?
 私は新型コロナ収束後の世界こそ心配しています。
 人間は同じ失敗を何度も繰り返す動物だからです。
 いまの世界は、100年前のスペイン風邪のときと状況が似てきました。
 当時は第一次世界大戦とも重なり地球人口の3分の1以上が感染しました。集団免疫を得たことでスペイン風邪は収束します。
 しかしその後が大変でした。疲弊した欧州諸国に変わり独り勝ちとなった米国の株価が暴騰します。「株は下がらないもの」という神話も生まれます。国民は銀行から金を借りてでも株を買います。銀行も「株投資なら」と融資を続けました。
 実態のない経済はやがてブラックマンデーを迎え、株は大暴落します。銀行も破綻します。追い打ちをかけるように西部で砂嵐が起き、数年続きます。白人の開拓者が草原を焼いて農地にし、環境破壊したことが原因でした。500万人もの農民が農地を捨て都会に集まります。大失業時代の始まりです。
 貧富の差が広まり無政府状態になります。大統領はニューデール政策をとり富裕税や公共投資を導入しますが解決しません。解決したのは第二次世界大戦でした。軍事産業拡大による雇用と兵役です。

 今回はどうなるのでしょうか?
 また同じような世界を心配します。
 一つは経済です。
 株価の乱高下はあっても国の金融緩和は続きますので上昇基調にかわりありません。
 経済のV字回復は望めず、企業も人も上昇回復に乗れるグループと、さらなる困窮にあえぐグループに分かれるK字回復なっていきます。国民の貧富の差は拡大し深刻になります。自殺者や犯罪も増える物騒な時代が始まります。

 二つ目は政治です。
 国の経済回復のスピードは中国の一人勝ちになるかもしれません。中国には世界の工場といわれるほど「ものづくりの現場」が集中しています。ものづくりは雇用を生みます。第二次大戦のときも、敗戦国であった日本とドイツがいち早く立ち直りましたが、優れた技能、技術を基本にした「ものづくりの現場」があったからです。
 いまの中国には多くの工場があり希少資源もあります。AIの進展は目を見張るばかりです。経済回復する中国は、今後、欧米や近隣諸国に対し強気の外交政策を続けることになります。
 香港やチベット、ウイグル民族への圧力にとどまらず、台湾への侵攻、アジア諸国の領海侵犯等が現実的になるかもしれません。欧米や世界中を敵に回しての対立が深刻になる時代を迎えます。かつての第二次世界大戦前夜に似た状況が作られているのです。

 三つめは、環境問題です。
 これまで中国、インド、東南アジア等開発途上の過程で発生した大量の排気ガス等が地球温暖化の要因だと言われています。深刻な環境破壊です。私には、今回の新型コロナが中国から発生したのも環境問題と無関係とは思えません。
 今後も異常気象による河川の氾濫、新たなウイルスが発生するかもしれません。
 食料危機も心配になっています。環境の変化により砂漠に雨が降るようになったのです。そのことで「砂漠飛びバッタ」が登場したのです。このバッタは砂の中にしか卵を産みません。雨の降った直後に大量の卵を産み何億匹もの大群になり移動します。そして世界中の農作物を食べつくします。
 1日で150キロ以上も移動します。ここ数年は毎年、殺虫剤で駆除して拡散を防いできましたが、昨年、今年とコロナ禍で従来のような対応がされていないとのことです。
 今後起きる台風等でゴビ砂漠やシルクロードを渡って中国大陸に上陸し農作物を食べ尽くしたら中国だけでなく世界的な食糧危機となります。新型コロナの比ではなくなります。

 中国は世界中から恐れられる国になったことで弱点も見えてきました。
 歴史的にみても、恐れられる国になった時が大国の頂点であり終わりの始まりになります。大国というのは尊敬される国にならなければ長続きはしません。
 人口の年齢構成の問題もあります。
 一人っ子政策が長く続いたために一人の若者が6人の高齢者を支える時代に突入してきました。食料、年金、医療、軍事等どれをとっても深刻です。中国の歴史をみても国民が飢える時に革命がおきています。
 三つ目は不動産バブル崩壊の心配です。中国の不動産は異常なほど暴騰しています。
 北京に行くと感じるのは夜になっても真っ暗な新築マンションが増えたことです。投資のために買われマンションの多くが空き室になっています。1人で何戸も購入しているそうです。今後、融資が途切れてバブル崩壊になればどうなるか。日本が経験したような失われた30年がはじまります。
 現在は習近平主席が巨大な権力者です。内部の権力闘争も報じられています。かつての文化大革命のような時代を心配する人もいます。
 私たちは中国という国を冷静にみていく必要があります。
 中国と欧米の対立だけでなく、イスラエルとアラブ諸国、ミャンマー、北朝鮮等も世界を混乱させていきます。複雑な政治状況になればなるほど日本は冷静に振る舞うべきです。

日本はどうすべきか?
新型コロナ感染拡大で日本の欠点も分かってきました。
  @ 日本で、なぜワクチンはできないのか
  A 世界一の病床ベットを所有する日本で、なぜ感染用のベットが足りないのか
  B 病院と保健所機能がなぜうまくいかないのか
  C 電話やネットによるワクチン予約がなぜ混乱するのか
  D ものづくり日本でなぜ部品が不足して自動車や電機製品が作れないのか
  E 国の指導力がなぜ弱まったのか
 それぞれ理由はあります。これらを反省材料にして日本改造しなければいけません。

基本的には

  1. IT技術、モノづくりを基本とした国づくりにする。
    これからは、ものづくりの世界も価値観が変わってきます。より安価な製品を求める者と安全で高品質な製品を求める者に。日本が世界に勝つには、価格競争に巻き込まれず、品質競争に勝てる国にしていく必要があります。そのためには品質競争に勝ち抜ける本物の技能士が主役にならなければなりません。
  2. 緊急事態に備えた産業を再構築する。
    緊急事態が起きても必要最小限のパーツだけは自国で製造できる体制整備が不可欠です。
  3. 医療、環境、食糧を重視した政策転換が必要になります。
    今後、起こりえるこの3つの事態に対処できる体制です。
  4. 何よりも国の指導力強化が必要です。
    官民あげた有能な人材活用です。官僚組織に対する国会議員の人事権関与を排除しなければ忖度した不祥事も止まりません。
 歴史的にみると、日本は幾度となく襲った災難から奇跡的に回復してきました。
 日本は資源には恵まれませんが、大陸から離れた美しい領土と人材には恵まれています。危機の時に必ずといってよいくらい神風が吹き思わぬ救世主が現れています。
 だが油断はできません。過去の歴史通りに神風が吹くとは限らないからです。
 いかなる時代でも国を維持する基本は武力ではなく、ものづくりを中心とした経済力です。「ひとづくり、ものづくり、くにづくり」ということを国の政策の柱にして、日本を世界に誇れる「ものづくり立国」「品質列島」にしていくことです。
 日本は世界から信頼され尊敬される国にならなければなりません。近い将来、「日本という国が地球上にあってよかった」と思われる時がくるかもしれません。
 私たちはこれから訪れる世界を冷静に判断し的確に対応していきたいと思います。

 長い話になり申し訳ありません。
 これで私の挨拶とさせていただきます。